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札幌地方裁判所 昭和45年(モ)866号 決定 1970年5月07日

申立人

農林大臣

倉石忠雄

右指定代理人

木村博典

(ほか七名)

当庁昭和四四年(行ウ)第一六、二三、二四号保安林解除処分取消請求事件について、

申立人から裁判官福島重雄に対し忌避の申立があつたので、当裁判所は、同裁判官の意見を聞いたうえ、次のとおり決定する。

主文

本件忌避の申立を却下する。

理由

第一申立の趣旨及び原因

申立人の申立の趣旨及び原因は別紙記載のとおりである。

第二本案事件の内容及び審理経過

本件申立の本案事件(いわゆる長沼事件)たる当庁昭和四四年(行ウ)第一六、二三、二四号保安林解除処分取消請求事件の記録によると、次の事実を認めることができる。

一本案事件は、伊藤隆外三五八名が原告となり申立人を被告として、申立人が昭和四四年七月七日農林省告示第一、〇二三号をもつてなした北海道夕張郡長沼町所在の保安林指定を解除する旨の処分の取消しの裁判を求めるものであり、原告らは請求原因として概ね、「原告らは長沼町の住民であり、右保安林解除に直接の利害関係を有する。被告(申立人)は、自衛隊の高射教育訓練施設敷地及び同連絡道路敷地とするとの理由で、右保安林解除処分を行なつた。しかし、右処分は次の(1)ないし(4)の理由で違法であり取消しを免れない。(1)右処分は、憲法九条二項に違反する自衛隊のミサイル基地設置の目的でなされたものであるから、森林法二六条二項の『公益上の理由』に該当しない。(2)右処分は、高射教育訓練施設の設置を理由としているが、そのためであれば、他に適当な土地を求めることができないとはいいがたいから、森林法二六条二項の『必要が生じたとき』の要件を欠いている。(3)右処分は、代替施設が未だ存在せず、また、その内容が未確定のままなされたから、森林法二六条二項、一条の解釈を誤つてなされたものである。(4)右処分は、公開による聴聞を行なわずになされたから、森林法三二条二項に違反する。」旨主張している。

二本案事件は当庁第一部に配付され、裁判官福島重雄を裁判長とする合議体(以下「合議一部」という。)で審理を始め、既に四回の口頭弁論を了しているが(第一回口頭弁論期日は昭和四四年(行ウ)第一六号事件のみで行なわれたが、第二回口頭弁論期日から同年(行ウ)第一六、二三、二四号事件が併合審理されている。)その間、原告側は前記請求原因のうちの取消理由につき、自衛隊の現状が憲法九条二項に違反することを前提として、自衛隊の実態を審理の対象とするよう主張し、一方、この点に関し、申立人は、「森林法二六条二項の『公益上の理由』の有無の判断にあたつて、自衛隊全体の実態を明らかにする必要はない。すなわち、自衛隊が憲法に違反するか否かの判断は、内閣あるいは国会等の政治部門の判断に委ねられ、司法裁判所の審査になじまないものである。また、少くとも、本件基地の設置が憲法九条二項に反するか否かのみを審理すれば足り、自衛隊全体の実態を審理する必要はない。」旨主張していたところ、合議一部の裁判長たる福島裁判官の訴訟指揮は、自衛隊の実態を審理の対象とする形で進められ、合議一部は昭和四五年三月一三日第四回口頭弁論期日において、自衛隊の実態を立証するため原告から申請されていた九名の証人のうちの一人である源田実を証人として採用し次回口頭弁論期日の同年五月一五日に尋問する旨及び同様の立証趣旨に基づく原告の文書送付嘱託の申請を採用する旨決定した。

第三当裁判所の判断

一記録によると、申立人側において本件忌避の原因として主張している青法協の実態等の事実を一定の資料的根拠に基づいて確知したのは、昭和四五年三月一三日の本案事件の第四回口頭弁論期日後である同年四月一三日頃であつたものと一応認めることができる。そこで、以上において申立人の申立の原因について判断を加えることとする。

二本件申立の骨子は、「青年法律家協会(以下「青法協」という。)は安保廃棄、自衛隊反対等の政治的活動方針を打出している政治団体で、しかも、本案事件の支援活動を行なつている。一方、福島裁判官はその青法協に所属し、青法協所属裁判官の機関誌「篝火」の編集責任者であつた有力会員であり、しかも、現に青法協札幌支部の先輩として指導的役割を果している。かかる裁判官が国政に重大な関係のある本案事件の審理を行なうことは、民事訴訟法三七条一項にいう『裁判の公正を妨ぐべき事情』がある場合に該当する。」というにある。

三そこで、まず青法協の性格等について検討するに、記録によれば、次のような事実を認めることができる。

1  青法協は昭和二九年四月設立され、当初は弁護士及び学者の会員からなつていたが、その後に至り裁判官及び司法修習生も会員として入会するようになり、現在その会員数は約二、〇〇〇名に達しているとされている。

2  青法協がその目的として掲げるところは、「憲法を擁護し、平和と民主主義をまもること」(青法協規約三条)であり、その目的達成のための事業として、調査・研究活動、教育・啓蒙活動、法の制定・運用に対する批判活動、法律問題処理に関する知識・技術の提供、他の団体との提携等を行なうこととしている(同規約四条)。そして、毎年五月頃青法協の全会員の構成する全国総会が開かれ、過去一年間の活動報告がなされるとともに爾後一年間の活動の基本方針が決定されているが、昭和四四年五月三一日全国総会で決定された活動方針は、(1)憲法改悪を阻止し、安保廃棄、沖繩全面返還を実現し、平和を守るための活動、(2)司法制度の改悪を阻止する活動、(3)基本的人権を擁護し、治安立法、治安体制の強化を阻止する活動、(4)国民の生活と権利を守るための活動、(5)組織、財政に関する活動の五項目のもとに具体的に定められていて、とくに(1)のうちの「安保廃棄」をその活動の中心に据えることとしている。しかして、青法協の具体的活動として、対内的には活動方針に沿つて憲法、司法制度、人権の各部会を設け調査、研究を行なうとともに、機関誌、例会活動を通じて会員相互の連携を強めるようにつとめ、一方、対外的には、「憲法問答」、「沖繩返還と一体化政策」等の出版による啓蒙活動を行ない、また、昭和三六年一一月日本民主法律家協会(以下「日民協」という。)に団体として加盟し、事項に応じて日民協、自由法曹団、総評弁護団とも連絡を保つて共同で活動をなし、さらに原水爆禁止大会、アジア・アフリカ法律家会議等の国際会議に代表を派遣している。

3  また、青法協が団体加盟している日民協は、昭和三六年一〇月安保改定阻止法律家会議を構成していた弁護士、学者等によつて設立された団体で、個人会員及び法律家団体により構成されていて、個人会員は約八〇〇名であり、加盟団体としては青法協のほか自由法曹団、総評弁護団が含まれている。そして、日民協の最近の活動方針は、(1)安保条約を廃棄させ沖繩を即時・無条件・全面的に返還させる。(2)権力による大学の管理、解体に反対し、大学の自治、学問の自由を擁護する。(3)司法の反動的再編に反対し、その他の治安機構の反動的強化に反対する。(4)明るい革新自治体を作り、強化する。(5)組織を拡大強化し、健全財政を確立するの五項目を重点的に追及することであり、過去において、自衛隊に反対する反動をその方針の一として掲げ、その一環として恵庭事件対策委員会を設置して同事件の支援を行なうとともに、同事件において自衛隊違憲を主張し、現在、前記活動方針の具体化として重要訴訟対策委員会を設置し、教科書訴訟、百里訴訟等の支援活動を行なつている。

しかしながら、青法協は前記のように日民協に団体として加盟しているのであり、そのため、青法協と日民協ないし日民協の他の加盟団体との連絡、事項別共同活動が行なわれることはあつても、日民協の活動方針及びそれに基づく具体的活動それ自体は、青法協の個々の会員の直接のかかわりのあるものではない。

4  しかして、青法協所属の裁判官会員は、昭和三八年頃よりその職務の特殊性から青法協内部において、独自の存在として事実上裁判官部会を成立させるに至り、対外的活動の面では慎重な態度で臨み、青法協の機関誌「青年法律家」とは別に裁判官会員誌として「篝火」を発行しているが、右「篝火」は、裁判官会員による実務上生起する法律問題についての研究発表、司法行政についての批判的所感、随想等を中心として編集され、全体としてみる限り特に政治的色彩を帯びたものではない。青法協内部においても、職業上の制約を配慮して裁判官会員の右態度を是認し、裁判官部会の運営等に積極的に関与したことはなかつた。そして、裁判官部会は、青法協が団体として加盟している日民協とも日常活動等において事実上無関係な存在であることが、青法協及び日民協において了解されている。

四ここで、青法協が組織として本案事件の原告側に対し支援活動を行なつているか否かにつき考えるに、記録によれば、青法協二二期札幌支部発行の「札幌支部ニュース」第二号に申立原因一記載のごとき文章が掲載されていること、「青法協二二期二三期合同東京支部ニュース」第一号に本案事件の原告ら訴訟代理人らの一人を講師とする本案事件に関する討論の集いへの呼掛けが記載されていることを認め得るが、そのいずれもが青法協会員である司法修習生の活動としてなされたものに過ぎず、しかも、支援活動とまで認めがたいことは右記載内容からもこれを知り得るのである。従つて、これらのみをもつて、直ちに、青法協が組織として、本案事件の支援活動を行なつていると断ずることはできない。

また、記録によれば、日民協機関誌「日本民法協」第三九号(昭和四四年九月一〇日発行)の編集後記に別紙「申立の原因」一記載のごとき文章が掲載されていることが認められるが、これのみをもつて、日民協が組織として本案事件を支援しているとはいいがたい。そして、他に青法協ないし日民協が本案事件を支援していることを認むべき資料はない。

五さらに福島裁判官と青法協との関係につき考えるに、記録によれば、同裁判官が昭和三二年司法修習生に採用された頃青法協に入会し、現にその会員であること、同裁判官が青法協所属の裁判官会員の会員誌である「篝火「(東京在勤の裁判官会員の一人が編集にあたることになつている)の第五ないし七号(昭和四〇年六月ないし昭和四一年三月発行)の編集を担当していたことを認めることができる(なお、同裁判官が青法協札幌支部に所属していることを認めるに足る資料はない)。しかしながら、同裁判官が青法協の一裁判官会員である以上に、前記のような青法協の活動方針の企画立案に関与する等青法協としての重要な組織活動に参加したとか、札幌における青協法会員の指導的役割を果しているとかの事実を認むべき資料はない。

六1  以上の事実関係を前提として、福島裁判官が前記第二記載のような審理途上にあり自衛隊の合憲違憲が争われている本案事件を担当するについて、同裁判官に「裁判の公正を妨ぐべき事情」が存するかどうかについて検討する。右にいう「裁判の公正を妨ぐべき事情」とは、裁判官が当該事件を担当した場合、一般人をして、不公正な裁判をなすに至るであろうという懸念をいだかせるに足る具体的な事情を意味するものであつて、それが単に主観的あるいは抽象的なものであつてはならないことはいうまでもないところである。

2  しかして、前記三及び四において認定したところによれば、青法協が、自衛隊反対運動と基調を同じくすると思われる安保廃棄等の政治的な活動方針をも有する広い意味での政治団体であることは否定し得ないが、組織として本案事件の支援活動を行なつているものではなく、一方、当然のことながら、青法協の前記活動方針も会員たる裁判官の職務活動を一般的に約束するものとは認められないし、実際にも、前記三の4に認定したように裁判官部会が青法協内部において職業上の制約を考慮した独自の存在として認められており、加えて、前記五に認定したように福島裁判官は裁判官部会の一会員であるにとどまり青法協の重要な組織活動に参加していないのであるから、同裁判官が青法協の前記活動方針に心理的拘束を受けるべき立場にないものと認めることができる。

そうであれば、結局、本件での問題点は、前記のような性格の青法協に一会員として加入している福島裁判官が本案事件の審理を担当することが許されるか否かに帰着するところ、以上のような事情と裁判官の独立及び身分が憲法上の制度として保障されていることを勘案すれば、未だ右の一事をもつてしては、裁判の公正を疑わしむべき具体性に欠けるものといわざるを得ない。

3  なお、申立人は、原告ら訴訟代理人らの中に青法協及び民法協の有力会員が存することをも附加的に忌避申立の理由としているもののごとくであるが、前記のような事実関係(とくに、青法協が組織として本案事件の支援をしておらず、また、青法協内部では裁判官部会が独自の存在として認められていること)の下においては、申立人主張のような事実が存するとしても、これをもつて裁判官の公正を疑わしむべき具体的な事情と認めることはできない。

また、申立人は、福島裁判官を裁判長とする合議一部が本案事件において被告(申立人)側の自衛隊に関するいわゆる統治行為論等の主張を採用せず、原告側申請の証人及び文書送付嘱託を採用する旨決定したことは、あたかも、青法協会員である福島裁判官が自衛隊論争を法廷に顕出せしめようとする原告ら訴訟代理人の意図に同調するものであり、ひいては、それが同裁判官に対する忌避の理由となるかのごとき主張をする。しかし、証拠の採否は裁判所の訴訟指揮の問題で、対立した当事者双方の主張の一方を採り他方を捨てたからといつて、そのこと自体忌避の理由となり得るものではないし、しかも、右決定は合議体としてなされたものであつて、福島裁判官が原告側の意図に同調した結果右のような決定がなされるに至つたものと認むべき資料はない。

七よつて、本件忌避の申立は理由がないので、これを却下することとして、主文のとおり決定する。(松野嘉貞 鈴木康之 岩垂正起)

申立の趣旨

御庁昭和四十四年(行ウ)第十六号、第二十三号、第二十四号保安林解除処分取消請求併合事件について、裁判長裁判官福島重雄に対する忌避は、理由あるものとの裁判を求める。

申立の原因

原告伊藤隆ほか三五八名、被告農林大臣間の申立趣旨掲記の事件(以下「長沼事件」という。)は、現在御庁民事第一部に係属中であるが、

一、被告の最近知り得たところによれば、御庁民事第一部裁判所の裁判長たる福島重雄裁判官は、青年法律家協会(以下「青法協」という。)の会員であり、青法協所属の裁判官グループの機関誌として昭和三十八年頃より発行されている「篝火」の元編集青任者であつて、現在青法協札幌支部において先輩格の会員として指導的役割を果しているものと考えられる。

しかして、青法協は、昭和二十九年四月より若手の弁譲士、裁判官、法律学者及び司法修習生らをもつて結成されてきたものであるが、昭和三十六年十一月日本民主法律家協会(以下「民法協」という。)に団体として加盟している。この民法協は、一九六〇年の日米安全保障条約改定に反対するため、いわゆる「民主的法律家」を結集した「安保条約改定阻止法律家会議」が昭和三十六年十月に発展的に改組されて創立されたものであり、青法協のほか、自由法曹団、総評弁護団、全司法も加盟しているが、その活動の一として、日米安保条約反対活動、自衛隊に反対する活動等を行ない、いわゆる恵庭事件対策委員会を設置して同事件の被告を支援する運動、いわゆる百里訴訟支援運動、教科書訴訟支援運動等重要訴訟を支援する運動を活溌に行なつているほか、最近の活動方針の一として、日米安保条約の廃棄活動を掲げ、「法律専門家集団として七〇年の国民的安保闘争に参加しよう」としているのみならず、昭和四十四年九月十日発行の民法協機関誌「日本民法協」第三九号においては、「長沼ミサイル基地事件は、砂川、恵庭事件を一そう発展させた憲法裁判、基地闘争として七〇年安保の核心に迫つて登場する様相を濃くしてきましたが、この裁判闘争に対する多様な支援活動が総会以後の日民協(民法協と同義)の大きな課題となることは明らかです。」としている。

かかる民法協に加盟している青法協は、民法協の傘下にあつて、民法協に同調する加盟団体等と緊密な相互の連携を保つているのであつて、然るが故に、表面的には「すべての政活的立場を離れて」「憲法を擁護し、平和と民主主義を守ることを目的」とし、研究調査活動にとどまるがごとく装つているが、民法協の運動方針と殆んど同一の運動方針の下に、その運動の重点を反権力的政治的活動に置き、多くの政治的実践活動を行なうに至つており、最近におけるその主要活動の一部をあげると、安保廃棄、安保体制強化反対、恵庭事件、百里事件についての担当弁護士との研究会、基地反対宣伝、自衛隊等による治安体制強化反対等の活動があり、昭和四十四年三月の全国拡大常任安員会における主要テーマとして「安保条約を破棄し、沖繩全面返還をかちとるため、私達青法協は、一九七〇年に向つていかなる役割を果たさなければならないか」という政治的なものを掲げ、同年五月三十一日の全国総会において「安保廃棄を活動方針の中心に据え」、安保廃業等の決議を行つているが、また、長沼基地事件に関し、同事件の原告代理人たる弁護士を講師として討論のつどいを開いて、長沼基地事件のみならずいわゆる平賀書簡問題を討議し、長沼基地事件の原告側を支援する活動を行つている。さらに、青法協札幌支部発行の「札幌支部ニュース」第二号においては、「青法協の使命は、……すぐれて政治的実践課題を担うものである」とし、「七〇年安保について、……憲法と安保体制の矛盾についての適確な評価を行ない、それを国民大衆に周知するための実践活動を行なおう。そのために「恵庭事件」研究の成果を「長沼基地」問題を考える過程で一層深め、安保―自衛隊―基地のもつ国民生活破壊の事実を修習生としての立場からアピールしていこう」と述べ、同誌の「長沼事件レポート」には、「長沼の場合、……恵庭事件と同等あるいはそれよりももつと強い形での(憲法)第九条論の展開がなされる公算が大きい点に、そしてそれを通じて自衛隊の存在、更に安保体制に対する日本国民全体の注目、批判が呼びさまされ、更に反対の運動へと盛り上つていくことが可能である点に重大な意味が存在すると思われる」と誌されている。

以上のごとく、青法協の実態は、政治活動の活溌な民法協に団体加盟し、その傘下にあつて、安保廃棄、自衛隊反対等の政治的活動方針を打ち出している政治団体と目されるのであり、特にその運動の主要なものとして長沼事件の支援活動を行つているものである。

二、およそ裁判官は、厳に主観的にも客観的にも裁判の公正の保持に努め、中立性を堅持しなければならないことはもちろんであつて、かかる裁判官が叙上のごとき青法協に会員として所属することは、裁判の公正に対する国民一般の信頼を維持する上において、極めて好ましくないことである。まして国政に重要な関係のある訴訟にあつては、その裁判に関与する裁判官が、政治体制又は国政に対して批判的ないし反対的な団体あるいは逆に同調的ないし与党的な団体に所属しているということすら、当該裁判官が主観的にいかに公正であるとしても、その裁判の公正について国民の疑惑を招くおそれのあることは避けられないことである。

従つて、叙上のごとく、現に、長沼事件の支援活動も行つている青法協の会員であり、しかも青法協に所属する裁判官グループの機関誌である「篝火」の編集責任者でもあつた有力会員であり、さらに青法協札幌支部における会員の先輩として指導的役割を果たしている福島重雄裁判官が、自衛隊基地設置のための保安林解除処分の適否が争われている、国政に重大な関係を有し、しかも民法協及び青法協の有力メンバーである彦坂敏尚弁護士等が原告代理人として、自衛隊の違憲を主張し、これを立証せんとして活溌にいわゆる法廷闘争を行つている長沼事件について、裁判長として関与することは、叙上の客観的事情に照らし、「裁判ノ公正ヲ妨グベキ事情アル」ものといわざるを得ない。

三、しかして、福島重雄裁判官が裁判長たる御庁民事第一部裁判所は、長沼事件の昭和四十五年三月十三日の口頭弁論期日において、原告らが自衛隊の現状の憲法違反なることを立証するために申請した源田実証人を同年五月十五日訊問し、かつ、別紙(略)掲記の各文書を送付嘱託をする旨を決定した。被告は、自衛隊の現状は、政府の防衛基本方針に基づき国会に提案された関係法律及び予算の慎重審議による承認を得て逐次形成されてきたものであり、これらの決定行為は、流動する国際環境、科学技術の進歩及びわが国の国力、国情等を将来の展望をも含めて綜合的に判断し、かつ、憲法第九条の精神にのつとり、高度の政治的裁量により決定されたものであるから、昭和三十四年十二月十六日最高裁判所大法廷判決及び昭和三十五年六月八日最高裁判所大法廷判決の趣旨に従うならば、当然、自衛隊の現状の合憲なりや否やは、司法裁判所の審査になじまない性質のものであるのみならず、裁判に必然的に随伴する手続上の制約にかんがみても、司法裁判所が審査すべきものでない旨を主張し、原告の右証人申請を採用する必要のないことの意見を述べたのであるが、右の意見が採用されなかつたのか、前記証人調及び文書送付嘱託の決定がされたのである。かかる決定の当否はしばらく措くとして、かかる決定については、前述した青法協の安保廃棄及び自衛隊反対の活動方針に照らして、長沼事件の彦坂弁護士等の原告代理人らがいわゆる自衛隊論争を法廷に顕出せしめんとする意図に同調するものではないかとの疑いを招くおそれなしとしない。

四、およそ、裁判官の忌避の制度の本質は、除斥又は回避のそれと同じく、裁判の公正を外部的に担保するためのものである。民事訴訟法において除斥、忌避又は回避の事由とされている原因又は事情がある場合であっても、必ずしも当該裁判官が公正を保持し得ず、または裁判の公正が期待し難いというものではないが、外部的、客観的事情によつて、国民をして裁判の公正について疑惑をいだかしめるおそれがあるときは、当該裁判官がその裁判に関与することが適当でないものとして、除斥、忌避又は回避の制度が設けられているのである。

従つて、被告が最近(長沼事件の昭和四十五年三月十三日口頭弁論期日後に)知り得たところの前述のごとき青法協の実態及び青法協と福島裁判官との関係に照して、福島裁判官が長沼事件の裁判に関与することは、その「裁判ノ公正ヲ妨グベキ」客観的な事情があるものと思料されるので、裁判の権威を保持し、国民の司法に対する信頼を維持するために、敢て忌避の申立をして、御庁の審査を求めるものである。

別紙

1昭和二九年度乃至同四五年度統合防衛計画

2前同各年陸上自衛隊防衛計画

3前同各年海上自衛隊防衛計画

4前同各年航空自衛隊防衛計画

5前同各年度陸上自衛隊教育訓練計画

6前同各年度海上自衛隊教育訓練計画

7前同各年度航空自衛隊教育訓練計画

8昭和三八年度統合防衛図上研究「三矢研究」の記事(全五分冊)

9フライングドラゴン計画

10ブルラン計画

11日本の防空実施に関する取扱いと題する協定(松前・バーンズ協定)

12治安行動(草案)

13防衛庁長官と警察庁長官との間の治安出動に関する覚え書

14三次防技術開発研究計画

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